猫の腎臓の働き

【監修】日本小動物透析医学協会 会長 宮本 賢治 先生

猫の体内には体重の60%に相当する水分が存在し、その水分は体に存在する何十億個という細胞を潤し、生命を支えています。猫の体には毎日、食事や飲み水により水分が入ってきますが、それと同じ量の水分の3分の1が呼吸・糞便・汗を通して、残りの3分の2が尿を通して排泄され、体には常に一定量の水分が保たれています。腎臓は尿を作ることで、その水分の維持に重要な働きをしています。

猫の腎臓とは

腎臓は腰のやや上部、背中側に左右に1つずつ
(合計2つ)あります。


腎臓には糸球体(しきゅうたい ※血管のかたまり)と尿細管(にょうさいかん)からなる「ネフロン」がたくさんあります。ネフロンは尿細管間質(にょうさいかんかんしつ)という組織に支えられています。

いろいろな腎臓の働き

猫の腎臓の最も重要な仕事は
尿を作ることですが、
他にも同時にいくつかの
重要な仕事を担っています。

  1. 1. 尿を作る
    猫の腎臓は1個当たり約20gという小さな臓器ですが、そこには心臓から全身に送られる血液のうち、約20%もの量が流れ込んでいます。腎臓はその血液を利用し、ネフロンと呼ばれる装置により尿を作ります。ネフロンは血液をろ過する糸球体と、糸球体からろ過されたろ液から必要な栄養素を回収(再吸収といいます)する尿細管からなり、血液中の老廃物や不要な成分を水分とともに排泄しています。
  2. 2. 体内(内部)環境を一定に保つ
    糸球体のろ液は原尿と呼ばれ、ナトリウムをはじめとして体に必要な成分がたくさん含まれています。尿細管はそれらの成分を再吸収して体に戻し、不要な成分は尿細管の周りの血管から尿細管へ分泌して排泄し、体内の環境を一定に保っています。
    糸球体で作られる原尿の量は体重4kgの猫では1時間当たり約770mlです。しかし、実際に尿として排泄される量は4~8mlですから、原尿の約99%以上が再吸収されていることになります。
  3. 3. 血圧を調節する
    糸球体は血圧を利用してろ液を作っていますので、血圧が低下するとろ過量が減少します。ろ過量が低下すると腎臓内でそれを感知し、レニンという物質を放出します。レニンはアンジオテンシン類に働きかけて全身の細い血管を収縮させ、血圧を上昇させます。一方、血圧が高い場合はレニンの分泌量を減らして血圧を下げます。
  4. 4. 血液(赤血球)の体内合成を促す
    赤血球は骨髄で作られています。骨髄に赤血球を作るように命令しているのは腎臓の特殊な細胞で作られるエリスロポエチンというホルモンです。腎臓の組織が何らかの理由で壊れると、エリスロポエチンの体内合成が減少して、赤血球を作る刺激が低下しますので貧血状態に陥ることがあります。
  5. 5. カルシトリオール
    (活性型ビタミンD3)の体内合成
    骨の主成分はリンとカルシウムです。食事に含まれるリンとカルシウムの吸収は主にカルシトリオールという物質で調節されています。この物質の材料は肝臓に蓄えられ、必要に応じて腎臓に送られ、尿細管で合成されます。腎臓は吸収されたリンを排泄できる唯一の臓器で、その排泄にはカルシトリオール以外にも複数のホルモンが複雑に関与しています。そのため、腎臓の組織が壊れてカルシトリオールの体内合成が低下すると、そのバランスが崩れ、腎臓の線維化(せんいか)や骨の融解(ゆうかい)など、さまざまな障害が現れます。