猫の慢性腎臓病
(CKD)の治療

猫の慢性腎臓病(CKD)の治療目的

猫の慢性腎臓病(CKD)の第Ⅰ期や第Ⅱ期では、すでに腎臓の内部に線維(せんい)症と呼ばれる病変が存在しますが、特殊な場合を除き併発症のタンパク尿や高血圧が非常に少ないので、腎臓に害になるサプリメントや薬物をできるだけ排除し、腎機能の進行性低下を抑える治療が中心となります。それに対し、第Ⅲ期の後半から第Ⅳ期にかけてはさまざまなCKDの併発症や全身症状が存在しますので、第Ⅰ期や第Ⅱ期の治療に加え、CKDに併発して起こる全身症状をできるだけ軽くする治療が必要となります。

猫のCKDに必要な治療

  1. 第Ⅰ期および第Ⅱ期

    第Ⅰ期は「腎臓に障害はあるが、全体的な働きは正常」、第Ⅱ期は「腎機能は軽度に低下しているが、臨床症状はほとんどない状態」ですから、この段階は健康診断などで偶然発見されるのが普通です。
    治療として、①タンパク質を中程度に制限した猫用の腎臓病療法食、②カルシウムを含まない腸内リン結合剤、③副作用の少ない腎血流増加および抗炎症作用を備えた薬物の投与を始めます。腎臓に傷害を与える恐れのある膀胱炎、尿道閉塞、および歯石などがある場合は、それも同時に治療します。

    生活環境については、トイレ、食器、および飲水容器の数を「飼育頭数+1」にするという原則を守り、新鮮な水を常に飲める快適な環境を作ることも重要です。さらに、収縮期の血圧が常に160mmHgを超える場合(高血圧)や尿タンパククレアチニン比が0.4を超えた場合(タンパク尿)には、適切な治療薬を投与します。

  2. 第Ⅲ期

    第Ⅲ期の猫は、ほとんど症状を示さないものから明らかな尿毒症の症状を示すものまで、幅広い病状を示します。臨床症状をともなわず、早朝尿の尿比重が1.035以上を示す猫は第Ⅲ期の前期と考えて第Ⅱ期と同じ治療を行います。臨床症状が軽度で、早朝尿の比重が1.012~1.034(低比重尿:腎臓の尿の濃縮力が失われている状態)の間の場合は中期、臨床症状が明らかで、尿比重が常に1.008~1.012に固定されている場合は後期と考え、前期の治療に加えてきめ細かい水分管理が必要です。

    実際には毎朝同じ時間に体重を測定し、体重が前日より減少している場合は、その体重減少分を脱水量と考え、その量を経口補水や皮下輸液により補います。猫は脱水刺激に鈍感な動物ですから、こうした猫の管理には水分が15%程度のドライ療法食より、水分が75%程度含まれているウェット療法食が適しています。

  3. 第Ⅳ期

    第Ⅳ期

    第Ⅳ期の猫には、第Ⅲ期の後半の治療をさらにきめ細かく積極的に行う必要があります。その理由は残された寿命が短いからです。このステージではほとんどの猫が尿比重1.008~1.012の低比重尿を排泄しますので、毎朝測定する体重は前日より常に減少しているのが普通です。したがって、頻繁な経口補水や皮下輸液が必要です。しかし、家庭の事情でそうした治療が行えない場合は、かかりつけの動物病院で食道ろうチューブ※1をつけてもらうと、食事管理、水分管理、投薬などの治療を簡単に行うことができます。

    貧血の程度が著しく、血液検査で赤血球の容積(PCV)が20%以下に低下したら造血ホルモンの定期注射を行うことがあります。また、低カリウム血症やアシドーシス※2に対する治療が必要な場合もあります。

    1. ※1食道ろうはチューブで食道に直接栄養や水分を送り込むための穴のことを指します。
    2. ※2CKDが原因で体の電解質や水分のバランスが乱れると、低カリウム血症やアシドーシス(酸性状態)がみられることがあります。

薬物療法

ステージの段階が進むにつれて、治療に必要な薬の種類も増えてきます。その一方で、第Ⅱ期では使えた薬が第Ⅳ期では使えないということもあります。

腎機能の低下を抑制

薬名 効果
プロスタサイクリン(PGI2)製剤 腎臓の内部の血行を改善させ(腎血流増加)、
低酸素状態や炎症を抑制(抗炎症)します。

タンパク尿や高血圧をコントロール

薬名 効果
レニンアンジオテンシン系阻害薬 タンパク尿を抑制します。ただし、脱水のある患者では使えないことがあります。
カルシウムチャンネル遮断薬 収縮期血圧を160mmHg以下に低下(降圧)させます。

高リン血症や貧血を改善

薬名 効果
リン吸着薬(クエン酸鉄) 食事中のリンを腸内で吸着し、高リン血症を改善します。
エリスロポエチン製剤 造血ホルモンとして赤血球の容積(PCV)を上昇させ、貧血を改善します。同時に鉄剤の投与が必要です。

低カリウム血症やアシドーシスを改善

薬名 効果
グルコン酸カリウム 低カリウム血症を改善します。
重炭酸ナトリウム アシドーシスを改善します。